コミュニケーション支援のための援助の考え方と具体的事例

―機器操作のための援助を中心に―

 

北九州市立総合療育センター

理学療法士   阿部 光司

 

はじめに

北九州市立総合療育センターでは、ハイテク外来でのコミュニケーション支援や日常生活で使用する様々な道具を使用するための援助を行っています。このような援助を行う上でポイントになる視点と乳幼児期からの関わりの重要性について述べ、具体的な事例を提示します。

 

T.機器の選択について

機器の使用目的や使用範囲などを十分に把握する必要があります。また、パソコンを使用する時には、身近にパソコン使用そのものへの援助ができる方がいるかも把握する必要があります。身近に援助者がいない場合は、支援団体や関係機関への紹介も行います。具体的な内容については、以下の通りです。

1.使用目的

1)音声でのコミュニケーションが目的

2)手紙など文字でのコミュニケーションが目的

3)E-mailやWeb閲覧などが目的

2.使用範囲

1)外出時など不特定な範囲

2)家や学校など特定の範囲

3)家など限定された範囲(場所)

音声でのコミュニケーションが目的で使用範囲が不特定な場合は、携帯型会話補助装置が選択肢となります。しかし、E-mailなどが目的であり、使用範囲が不特定の場合は携帯電話やモバイル型パソコンなどが選択肢となります。使用範囲が限定されている場合には、ノート型パソコンを中心に検討します。

 

U.機器操作について

1.携帯型会話補助装置

1)パネル操作が困難な場合には、外部入力を利用します。外部入力用の機器は次で説明します。

2.パソコン

1)標準的な機能での配慮

(1)マウス操作ができない場合

@Windows系のOSであれば、マウスキー機能を利用することができます。この場合、別売りのテンキーが必要になることがあります。また、文字入力はオンスクリーンキーボードを併用することで可能となります。

Aマウスの代替機器である「こねこの手2」や「らくらくマウス」などの機器を使用することで代償することができます。「こねこの手2」などが使用できる場合は、キーボード操作はキーガードを使用するなどすれば、可能になることがあります。

 

(2)キーボード操作ができない場合。

@マウスなどの使用が可能な場合は、オンスクリーンキーボードを使用することができます。また、キーガードを利用すると解決することがあります。

A「Shift」や「Ctrl」など2つ以上のキーを同時に操作できない場合には、キーロック機能を併用することで解決することがあります。

Bマウス操作、キーボード操作ともに困難な場合

「伝の心」や「オペレートナビ」など支援ソフトを利用します。この場合、一般的には、特殊な入力方法を選択することになります。

 

 

V.入力機器の選択と入力方法

入力機器の選択と入力方法の決定は以下のような視点で行います。また、機器操作を行う姿勢や肢位で確認します。

1.随意運動が可能な部位と運動の方向の確認

「肘を伸ばす」など入力動作が可能な部位と運動方向の確認を行います。1部位1方向だけでなく複数の部位や複数の方向で入力が可能であれば、機器操作は効率が良いです。「まぶた」や「舌」などの場合はセンサースイッチを選択します。「肘」など大きな関節な場合は、2.以下の手順を行います。

2.運動範囲の確認

随意運動可能な範囲を確認します。これによって、入力機器を設置する場所が決定されます。範囲が非常に狭い場合は、センサースイッチを選択することもあります。

3.運動の強さ(筋力)を確認する。

入力機器を操作するために必要な運動の強さを確認します。強い力で操作が可能な場合は、機械スイッチを選択します。また、力が弱い場合はセンサースイッチを選択します。これは、入力の効率だけでなく、入力機器の破損などを避ける目的もあります。

 

W.乳幼児期からの配慮

コミュニケーション支援機器を使用するためには、スイッチを押す画面を見るなどの動作が必要になります。ここでは「スイッチを押すと音声がでる」「このコマンドを選択すると文字が入力される」など因果関係(二項関係や三項関係)が成立する必要があります。しかし、脳性麻痺などの疾患では、知的障害を併発していることが多く、機器操作の理解が進みにくいことがあります。コミュニケーション機器が必要になった時に、すぐに操作が理解できるような配慮が乳幼児期から必要です。具体的には、玩具にBDアダプターを取り付け、スイッチを操作すると玩具が動くといった経験を早期から行うことで因果関係の学習を行うべきです。

 

X.具体的事例

1.脳性麻痺 不随意運動型 10代

構音障害があり、音声が不明瞭でした。中等度の知的障害があり、ひらがなを読むことは困難です。ご家族はトイレ介助や食事介助時に必要な援助依頼を誰にでも伝えられること希望されました。家庭と学校の他にデイサービスも利用されており、使用場所としては、比較的広い範囲となる可能性がありました。上肢の随意性はよくスイッチの操作は、問題ないと判断しました。

レッツチャット(写真左上)とパソコンの接続

1)使用機器:レッツチャット 外部入力はなし。

2)使用方法:レッツチャットのボタンに必要な援助依頼をシンボルと文字で表示しました。ボタン部分を押すことで、「トイレに行きたいです」「ありがとうございます」などの音声を登録し、日常生活での援助依頼は可能となりました。


レッツチャット(写真左上)とパソコンの接続

 

2.デゥシエンヌ型筋ジストロフィー 10代

会話は可能でしたが、声が小さく聞き取りにくく、E-mailを使い友人とのコミュニケーションを希望されました。週2回のデイサービスを利用されていましたが、使用場所は家庭に限定されていました。手指の動きが最も確実な動きでした。

1)使用機器:ノート型パソコン・オペレートナビ、

スペックスイッチを使用

2)使用方法:オペレートナビを自動スキャンに設定しました。また、コマンドをグループに分類し、グループ毎のスキャンを数回繰り返し、目的のコマンドを選択するようにしました。


スペックスイッチとパソコンの接続           オペレートナビ画面

 

 

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