1 失語症とは
失語症とは、脳卒中や交通事故などの後遺症でことばの能力に障害が残った状態を言います。話す ことだけでなく、聞くこと、書くこと、読むことも不自由になります。 原因は脳卒中(脳出血や脳梗塞)や頭部外傷(交通事故や転落事故)、脳腫瘍などで起こることで あり、心理的なショックや精神的なストレスで起こるものではありません。
北九州市立障害福祉センター
言語聴覚士 志賀 美代子
失語症とは、脳卒中や交通事故などの後遺症でことばの能力に障害が残った状態を言います。話す ことだけでなく、聞くこと、書くこと、読むことも不自由になります。 原因は脳卒中(脳出血や脳梗塞)や頭部外傷(交通事故や転落事故)、脳腫瘍などで起こることで あり、心理的なショックや精神的なストレスで起こるものではありません。
失語症になると話しことばだけでなく、聞く、話す、読む、書く、数や計算に関して、全部または 部分的に障害されます。具体的には次のような症状がでてきます。
・耳は聞こえているのに、ことばの意味が理解できなくなります。
・聞いた内容を頭にとどめておくことが難しくなります。
・速い話し方や長い文や複雑な内容は理解しにくくなります。
・言いたいことばが出てこなくなります。
・思ったことと違うことばを言ってしまいます。
・文章で話すことが難しくなります。
・発音がたどたどしくなります。
・回りくどい言い方をします。
・前に言ったことばが続いて出てしまいます。
・文字を思い出せなくなります。
・漢字より仮名が難しいです。
・書き誤りがあります。
・助詞を間違えたり、文にならなかったりします。
・読んで理解することが難しくなります。
・特に漢字より仮名が難しいです。
・声を出して読むことが難しくなります。
・読んでも意味がわかってないことがあります
・数字は聞くより見る方が理解しやすいです。
・言いたい数字と違う数字を言ってしまいます。
・計算も難しくなります。特にかけ算や割り算は難しくなります。
失語症の言語症状は様々で、重症度も様々です。以下に代表的なタイプをあげてみます。これにピ ッタリ当てはまらなくても、何が難しいのか、どうしたら分かるのかなど細かくみていくことが大切 です。
ことば数が少なく、たどたどしい話し方になります。聞いて理解することも難しくなりますが、話すことよりは良好です。漢字に比べて仮名文字が難しいです。
なめらかにペラペラと話すことができますが、何を言いたいのか肝心なことばは出ない、間違うなど意味がわかりにくい話し方になります。聞いて理解することが難しくなります。自分の障害に気づいていない場合もあります。
日常的な会話の理解はほぼでき、会話もできますが、物の名前や固有名詞が言えないことが多いです。言いたいことばが出ずに、まわりくどい言い方になります。
理解も表現もとても困難になりますが、その人の感情に強く訴えるようなことばや状況の理解を借りたときに理解できることがあります。コミュニケーションの意欲はあり、身振りや何かを指し示すなどで伝えようとします。数を数えたり、歌ったりはできることもあります。
①
ことばでは表せなくても日常的なあいさつや感謝の気持ち、お詫びの気持ち、その場にふさわしい態度をとることはできます。
② その人らしい人格は変わることはありません。
③
出来事の記憶や時間や場所の感覚は変わりません。質問されてことばで答えられないことがあっても、カレンダーや地図などを見せたり、筆記用具を用意したりすると、正しく答えることができます。
④
状況の中での気づきや判断はできます。いつも来ている人が休んでいると、どうしてなのかなとか、約束の時間に到着できるように早く出ようなどと、家族に身振りや指さしやことばで伝えようとします。
⑤
社会情勢や様々な出来事にも関心を持っていますし、それに対しての意見も持っています。また以前やっていた趣味(例えば、碁や将棋や麻雀など)は、同じように楽しむことができることも多いです。
①
失語症は脳の左半球にある言語中枢が損傷されるために起こるので、右片麻痺を伴うことが多いです。日常生活の様々な行為が難しくなります。
②
同じように視野障害、右半側空間無視を伴うことがあります。食事のときに食べ残してしまったり、障害物にぶつかったりします。
③
集中力が低下して疲れやすくなります。病前には何気なくやれていた人の話を聞く、自分の思っていることを伝えるということにかなりの集中力を必要としてしまいます。
発声発語に必要な器官(口唇・舌など)の運動が障害され、声や発音の異常が起こり、話しことばが不明瞭になります。聞いて理解することや読み書きは問題がありません。ですから50音表のような文字盤の使用でコミュニケーションがとれます。
声が出なくなる病気で、声帯の異常で起こります。精神的ストレスでも起きます。筆談は可能です。
脳の器質的病変により、一度獲得された知能が持続的に低下し、それによって日常生活に支障をきたす状態です。
①
人格を尊重した接し方をします。病前と同じ語調やことばづかいを心がけましょう。
②
会話は落ち着いた雰囲気の中で行います。聞く側がイライラしていると失語症の人は混乱してますます言えなくなります。
③ お互いの表情がわかるような位置で会話します。
④
失語症の人のお話を最後までゆっくりと聞きましょう。途中で遮ったり代わりに言ったりせずに、最後まで聞きましょう。
⑤ 同じことを言うのにも短い簡単なことばで表現しましょう。
⑥ 間を十分に入れて話しかけましょう。
⑦ 伝わったかどうか確認しましょう。伝わらなかったら、繰り返して話したり、別の言い方で言ったり、字や絵を使って伝えましょう。
⑧
ことばで言うことが難しい人には「はい、いいえ」や身振りで答えられるように会話を進めましょう。
⑨ 50
音表を指さして表現することは、失語症の人にとっては難しいことです。絵や記号(○×〒♪?等)、図、文字を利用しながら、会話を進めましょう。平仮名より漢字の方が理解しやすいです。
⑩
カレンダーや地図や写真などがあると話題が広がり、会話が楽しめます。
⑪
ことばの回復には生活の中での生きた言語刺激が大切です。買い物や映画に行ったり、家族で出
かけたり、客を呼んだり、家族と食事するなど、ことばの環境を大切にしましょう。
失語症のように脳の神経細胞に損傷を受けた場合には、再生は難しく、障害が残ってしまいます。 しかし積極的にリハビリテーションを受けることで障害を少しでも軽くし、残った機能をいかして、 豊かな生活を送っていくことができます。 失語症のリハビリテーションを専門的に担うのは言語聴覚士(ST)です。STのいる病院、施設で専門的なリハビリを受けることができます。(言語聴覚士のいる施設一覧福岡県言語聴覚士会HP参照(http://homepage3.nifty.com/fukuoka-st/)
北九州市立障害福祉センターでは、病院でのリハビリが終了した人に対して、失語症を抱えながらも豊かな社会・家庭生活を送るために、集団言語リハビリ教室を開いています。(北九州市HP参照分野別→健康・福祉・人権→障害者の福祉→施設案内
http://www.city.kitakyushu.jp/)
連絡先 北九州市立障害福祉センター 言語聴覚士 電話 093-522-8724
北九州には失語症者とその家族のための集いとして、失語症友の会「あすの会」があります。
言語に障害をもった仲間がお互いに励ましあいながら、よりよいコミュニケーション関係づくり、社会参加などを目指し、情報交換、親睦活動を行っています。また、広く失語症の人へ呼びかけ、交流事業を行っています。
定例会および交流事業
日時 毎月第2日曜日(原則) 10時〜14時
場所 ウェルとばた6階 東部障害者福祉会館 電話093-883-5550
失語症会話パートナーとは、失語症の人が抱える悩みや不便さを理解し、意志の疎通を援助する専
門ボランティアです。
福岡県失語症会話パートナー養成「あんど」は、言語聴覚士による団体で、福岡県内の失語症会話パートナーの養成と活動支援を行っています。
北九州市で活動している失語症会話パートナー「あんど北九州」は、北九州失語症友の会「あすの会」の例会を軸に、失語症の方が集まる場での会話支援を行っています。
(あんどHP参照 http://www14.ocn.ne.jp/~and/)