COMIT 北九州コミットの会

肢体不自由の障害がある方への
ITを活用したコミュニケーション支援を通して

北九州市障害者地域生活支援センター
立目 章

はじめに

 重度の肢体不自由があるMさんのコミュニケーションの手段としてコンピュータなどのIT(Information Technology)を活用したコミュニケーション支援の様子や支援者の関わりなどを紹介します。また、支援を通して感じた在宅障害者へのコミュニケーション支援の課題などについても述べたいと思います。

Mさんについて

 Mさんは、脳性麻痺(アテトーゼ型)による肢体不自由1級で、寝返りや座ったりするのも介護がないと一人ではできません。上肢は動くのですが、自分の思った通りの動きができないために、物をつかんだりすることが難しい場合があります。Mさんに出会ったのは、今から10年くらい前ですが、電話をかけたり、手紙を書いたりすることができず、Mさんとやり取りをするには、自宅に訪問し、直接話しをするしかありませんでした。
自分で手紙を書きたいというMさんの希望で、コンピュータの利用に向けた取り組みが始まりました。

コンピュータの利用

 上肢に障害があるためにキーボードによる入力をすることができない場合には、障害状況に応じた入力スイッチ(以下、スイッチ)と、文章作成やメール、インターネットができる専用のソフトを利用します。
 Mさんがコンピュータを利用するために、どのようなスイッチであれば確実に入力できるかの検討から始めました。
 Mさんは、握ったり、つまんだりすることはできるので、その動きを活用することを考え、幾つかのスイッチを試しました。親指の動きで入力するスイッチが使い易いということでしたので、(写真1)にある入力スイッチとワープロソフトで、入力練習を行いました。
 利用したワープロソフトは、ひらがなの五十音表が表示されていて、まず「あ」「か」「さ」「た」「な」など、各行を枠が順次移動します。入力したい行でスイッチを押すと、次はその行内を枠が移動します。
 例えば、「さ」行でスイッチを押すと、「さ」「し」「す」「せ」「そ」と、移動する感じです。入力したい文字のところでスイッチを押すと、その文字が決定されます。これを繰り返して、単語を入力します。もちろん、ひらがなから漢字に変換することもできます。このソフトを活用して、入力練習をすることにしました.

スイッチを握っている対象者の写真

写真1

ハーティーラダーの画面

写真2

 ここまでは、北九州市障害者地域生活支援センターの職員が行ったのですが、十分な訓練時間が確保できなかったので、以後は、パソコンボランティアの人が入力練習を支援しました。
 当初は、うまく入力できなかったのですが、Mさんの「自分で手紙を書きたいという強い気持ち」とパソコンボランティアの丁寧な対応もあり、暑中見舞いや年賀状を出すことができました。

画面を見る対象者の画面

写真3

 今では、ハーティーラダー(写真2)という肢体不自由の方用に開発されたソフトを活用して、メールでのやり取りができるようになっています

携帯電話の利用

 コンピュータはうまく利用できるようにはなったのですが、一つ問題がありました。それは、一人ではコンピュータやスイッチの準備ができないということでした。同居している家族では、操作は難しいので、これまでもパソコンボランティア、パソコンサポーター(北九州市独自の制度)やMさんの入浴介護などで利用しているヘルパーに手伝ってもらってきました。
 そこで、支援センターの職員が、肢体不自由の障害がある方でも使える携帯電話を紹介し、導入を検討することにしました。NTTの協力で、デモ機で試したところ画面が小さいくらいで問題 なく利用できました。
 福祉用具プラザ北九州の作業療法士に携帯電話を目の前に固定する補助具を作成してもらいました。これで、自分で必要な時にメールができる環境が整いました。(写真4)

ベッド横に固定された携帯電話を使用する対象者

写真4

在宅障害者へのITを活用したコミュニケーション支援における課題

 Mさんのように在宅で生活している方へのIT支援を考えた時、「情報」「機器等の選定、導入援助」「日常生活の中での利用援助(アフターフォロー)」などの課題があります。
情報について
 障害のある人たちが利用できるように開発された機器、ソフトは多く、その情報もインターネットなどでも簡単に入手できるようになっています。
 また、「北九州市障害者パソコンサポーター派遣事業」等の制度や障害者のパソコン活用を支援している機関・団体なども増えています。
 しかし、必要な障害のある人や家族に、情報が届いていないという現状があります。
 今回、紹介した障害者用に開発された携帯電話なども、「そんな製品があるのですか」「そんなことができるのですか」と障害のある人に関わる仕事をしている人からも聞かれます。
 まだ、福祉現場において障害のある人たちへのコミュニケーション支援が重視されていないために、情報が共有されていないのではないでしょうか。まずは、関係者への「コミュニケーション支援の重要性」の周知、啓発が必要と思われます。

機器等の選定、導入援助について

 障害に応じた機器選定していくということは、押さえておかなければならないポイントの一つです。情報提供のみで使える場合もありますが、Mさんのような障害ではフィッティングが不可欠です。リハビリなどを受けている場合には、訓練士に助言してもらう場合もあります。
 また、Mさんの場合もそうだったのですが、導入訓練が必要な場合があり、誰がその援助をするのかが課題になります。特に、期間が長くなればなるほど、きちんと対応できる支援者が少なくなってしまいます。Mさんのように、複数の支援者で協力していくような工夫が必要です。

日常生活の中での利用援助(アフターフォロー)について

 ある程度利用できる環境が整ってくると支援者の関わりが少なくなってきます。入力装置やコンピュータの調子が悪くなった時や障害の状態が変化して、利用できなった時にきちんと対応できる体制が必要なのですが、十分ではありません。
 進行性の疾患である筋萎縮性側索硬化症(ALS)の方には、制度で機器が給付されますが、進行に伴い使えなったので、使用をやめてしまったという方に出会うことがあります。
相談窓口を本人、家族や関わっている支援者にきちんと伝えておく必要があります。

最後に

 このような課題を踏まえながら、Mさんのコンピュータ活用のためにいろいろな支援者が、必要に応じて関わっています。このようなトータルな支援体制があってこそ、それぞれの支援者の役割がきちんと果たせると思います。
 障害の状況に応じて機器等が給付される等、物や人による支援の制度があります。また、携帯電話など、障害に対応した機種や料金の減免制度などもあります。 最後に、MさんがIT支援で利用した制度、減免制度、機器や支援機関を紹介しておきます。
 利用については、障害状況などの条件もありますので、確認をして下さい。

○障害児・者の民間の相談窓口

北九州市障害者地域生活支援センター(093-861-3045)

○北九州市障害者パソコンサポーター派遣事業

北九州市障害福祉ボランティア協会(093-882-6770)

○パソボラネット北九州(070-5690-4803)

○福祉用具プラザ北九州(093-522-8721)

○肢体不自由者用ソフト
HeartyLadder(ハーティー ラダー)

http://takaki.la.coocan.jp/hearty/

携帯電話 FOMA D800 iDSs

(現在製造はしていないので、在庫の確認が必要です)

○携帯電話料金減免制度

対象者は、身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳を持っている方
内容は、NTTドコモ、ソフトバンク、au各社で減免の内容が異なりますので、確認して下さい。