COMIT 北九州コミットの会

重度視覚障害者の
パソコン検定受験支援について

特定非営利活動法人
北九州市視覚障害者自立推進協会あいず
須藤 輝勝

 北九州市視覚障害者自立推進協会あいず(以下、あいずと略称)では、朝日新聞厚生文化事業団の助成を得て、重度視覚障害者を対象とした「日商pc検定(文書作成)3級」受験のための講座を実施しました。


背景とねらいについて

 パソコンを使える視覚障害者は多いにもかかわらず、そのスキルを証明する検定試験を重度視覚障害者は受験することはできませんでした。2006年12月に日本職能開発センターが「日商PC検定(文書作成)3級」をスクリーンリーダーで受験できるシステムを開発し、これが現在でも重度視覚障害者が点訳者や音読者の力を借りず自力でパソコンを使って受験できる唯一のパソコン検定試験です。

 しかし、この検定試験を重度視覚障害者が受験しようとした時に、視覚障害者に対応したテキストや講座は全くありません。市販されている対策テキストや問題集は、見える人が対象なので、そのままでは使えません。たとえ点訳や音訳をしたとしても、画面が見えてマウスが使える晴眼者を対象に書かれているので、スクリーンリーダーとキーボードを使ってパソコンを操作する重度視覚障害者には殆ど役に立ちません。一般のパソコン教室の対策講座も同じ理由で受講できません。

 そこで、視覚障害者に対応した受験対策のためのテキストや問題集、そして対策講座が必要になります。このような教材を揃え、対策講座を実施することで、「日商PC検定(文書作成)3級」にひとりでも多くの合格者を出し、視覚障害者の就労支援の一助としたいということでの事業を実施しました。

事業の概要

実施者:

特定非営利活動法人北九州市視覚障害者自立推進協会あいず

○協力:

ふくおか視覚障害者雇用開発推進センター

北九州市障害者社会参加推進センター

○実施体制:

下記の実行委員会及び問題作成部会を組織して事業を運営、実施しました。

◇実行委員会(委員長:野村秀紀)

野村 秀紀
特定非営利活動法人北九州市視覚障害者自立推進協会あいず 理事長

氏間 和仁
福岡教育大学教育学部 准教授

和田 親宗
九州工業大学大学院生命体工学科 准教授

赤松 賢一
ふくおか視覚障害者雇用開発推進センター 理事長

松本 大史
北九州市障害者社会参加推進センター

吉松 政春
北九州盲学校 校長

田中 清
(有)化成フロンティアサービス 取締役

高 清秀
特定非営利活動法人北九州市視覚障害者自立推進協会あいず 事務局長

須藤 輝勝
視覚障害者小規模共同作業所あいず 所長


◇問題作成部会(部長:高清秀実行委員)

伊藤 薫
特定非営利活動法人北九州市視覚障害者自立推進協会あいず 理事

大宅 宏志
特定非営利活動法人北九州市視覚障害者自立推進協会あいず IT部会長

水上 嘉美
視覚障害者小規模共同作業所あいず 副所長

安木 順子
視覚障害者小規模共同作業所あいず 指導員

中村 忠能
(有)化成フロンティアサービス OAセンター

松永 みちる
北九州市パソコンサポーター派遣事業 登録サポーター

事業期間

平成21年7月~12月

事業内容

1.受験準備のためのテキスト等資料作成

・「知識科目」対策問題集270問 *解答、一部解説付き
・「実技科目」のためのスキルチェック表、解法手順書
・ビジネス文書のフォーム(レイアウト)を理解してもらうための点図表
・グラフや表のイメージを理解してもらうための点図表
・ビジネス文書の書き方についての音訳版作成

2.対策講座

・総時間数26時間(全7日)
・PCを使っての実技練習や模擬テスト
・講座実施日:9月6日、13日、27日、10月3日、11日、17日、24日
・会場:東部障害者福祉会館研修室6C、作業所あいず

3.メーリングリストでの情報提供、情報交換など

・スタッフ用ML:委員会と問題作成部会のメンバーで構成。講座の指導内容や資料などについての討議をしました。
・受講者ML:受講者とスタッフで構成。質疑応答、課題提供、各種連絡に利用。
・受験に関する質疑応答だけでなく、受講者のモチベーションアップにも大変有効でした。

4.個別指導(メールでの添削指導も含む直接・間接指導)

MLで実技問題などの課題を与え、スタッフがメールで添削指導しました。
希望者には作業所あいずでマンツーマンの指導をしました。

5.試験環境検証のための模擬試験への立ち会い

8月26日、11月16日

6.検定試験の実施

9月19日、10月25日、11月21日、11月27日

成果のまとめ

 今回の事業で得られた成果をまとめると次の通りです。
1. 受験者(重度視覚障害者7名)のうち6名の合格者を出すことができました。(内1名は再受験合格)
2. この事業により、視覚障害者への受験支援のためのノウハウが蓄積され、それを講師・サポーター・受験者で共有することができました。また、蓄積されたノウハウは、知識科目問題集、実技試験スキルチェック&解法手順書などとして形になりました。
3. これにより、重度視覚障害者に対する「日商PC検定」の受験をサポートできる人材と資料が揃ったため、これからも継続的に支援ができる基盤ができました。

課題と今後

今回の事業を実施しての課題と今後の計画は次の通りです。
1. 今回の事業で合格した人は、日常的にメールなどをしてパソコンを使っている人でした。まだパソコンに習熟していない視覚障害者のスキルアップも必要です。
2. 合格状況から見て、対策のための教材、資料、講座の内容は、ほぼ正鵠を得ていたと考えられます。今後は、これをベースに更に充実した内容のものにグレードアップしていきたいです。
3. 今回の事業で得たノウハウと人的資源を活用して地元で更に合格者を増やし、視覚障害者の一般就労の裾野を広げていきたいです。
4. また、現在のところ重度視覚障害者が受験できる検定試験が「日商PC検定(文書作成)3級」だけなので、試験の種類や級数を増やすよう関係機関・団体等に働きかけて行きたいです。

<その他>
PC-TalkerやWindows、Wordのバージョンにより読み上げができたりできなかったりします。今回は、試験会場のマシン環境(PC-Talker 2.1、Windows XP、Word 2003の組み合わせ)で最もよいと思われる操作方法で問題を解いてもらいました。特に、網掛けや罫線の線種変更などの操作がメニューバーからの操作では読み上げないところが多く、ツールバーから操作する方法を取りました。 また、6点入力での受験者にマシントラブルが発生しました。原因が6点入力にあったのかどうかは特定できませんでした。